
おわりに

|
夜便で行き、夜便で帰る、時間的には無駄のない旅だったが、さすが疲れた。 とくに帰国、朝早く到着というのは時差ボケがとれにくいように思えた。しかし 充実した旅であった。
もともとロマネスクファンで、その裾野をひろげる意味で始めたビザンティン美術の勉強だが、旅行から帰って直後はもうロマネスクに戻れないのではないか、と思うほどビザンティン美術に魅了されてしまっていた。
単に教会建築の美しさ、壁画の美しさに魅了された、というだけではない。
ビザンティンの壁画プログラムについて知ると、これまでのロマネスクの面白彫刻は一体何だったのか? と考えさせられてしまった。
ビザンティン世界では初期キリスト教時代から、公会議で教義論争がなされてきた。(一神論の立場をとるキリスト教が、神に遣わされたキリストが神であると同時に人間イエスであり、そのイエスの十字架上の死によって人類の罪が贖われる、という教義なので、三位一体論とキリスト論をどう考えるについて論じられてきた)
またイスラム教徒に囲まれて偶像崇拝を批判された、ということからも信仰の在り方についての問い直しをせまられた、という状況があったのではないか。
ビザンティン教会で壁画プログラムが云々されるのは そういう教義的というか哲学的思考の反映であるように思われる。
私の見方が浅いからだろうとは思うが西側ロマネスク教会にはそのような面が希薄なような気がするのだ。
これまで考えてこなかったが、単にロマネスク教会を次々見てまわるだけでいいのだろうか?と反省もした。といっても矢張り次もおっかけ旅を してしまったのだが。
ローマ帝国がコンスタンティノープルに都を移したのが330年。
テサロニキは首都から離れていたためにイコノクラスムにより破壊されることなく残った教会が多く存在し、ビザンティン全期の美術が観られる町である。(イスラム時代に漆喰で塗りこめられた壁画も現在ではみることができる)、
コンスタンティノープルとローマを結ぶのが、エグナティア街道と(アドリア海を渡って)アッピア街道。当然この街道沿いに教会は多く建てられている。今回の旅、前半は このエグナティオ街道沿いの町の教会を観ることになっていた。がその途中、ビザンティン以前のヘレニズム時代(ペラ、ヴェルギナ)やローマ時代(ビトラ)の遺跡も目にすることができて、この点でも時間への旅ともなった。
旅行はあらかじめ、見学する教会についての平面図や壁画の配置、教会についての説明などが記された資料が配られ、教会内では所々説明されたあとは各自自由に見ながら適宜質問を、というスタイルだった。研究者でいらっしゃる先生が同行されるため、特別に写真撮影が許可された教会が殆どだったが、撮影できないときのために以前に先生が撮影された画像をCDにおさめられたものも頂けた(もちろんネット公開はできないのだが) これも貴重な資料である。そういう点で講師同行ツアーはメリット大きかった。
その上、教会についての説明がお仕事、と後は知らん顔をなさるような先生ではなく、午後のフリータイムの過ごし方にも気を配ってくださり、一緒にショッピングしながら あれこれ、食べ物についても教えてくださるなど、そういった面でも充実した旅であった。
M先生と明るく親切な添乗員Kさんとのおかげで楽しく満足のいく旅ができたことを感謝しています。
このホームページ作成に先生の下さった資料とともに、Kさんの旅日記も大いに活用させていただきました。
ありがとうございました。
::::::::
読んだ本
私が読んが本のうち、今回の旅に際して必読と思ったのは
* 『ビザンティン』 益田朋幸著 山川出版社 (世界歴史の旅シリーズ) ビザンティン美術について、と 各地の教会について
* 『ビザンティンの聖堂美術』 益田朋幸著 聖堂プログラムについて、前半はクルビノヴォの教会がとりあげられている。
他に 『ビザンティンでいこう!』 益田朋幸著 東京書籍 これは旅行記的で楽しい
全体的な参考書として
* 西洋美術の歴史2 中世Tキリスト教美術とビザンティン世界 中央公論社 加藤磨珠枝 益田朋幸著
実を言うとこれを購入したのは最近、まだ読んでいる途中、でも勉強になりそう
そのほか ところどころ参考にした本は数多くあるが、そのうちの一部
* 『中世絵画を読む』 辻佐保子著 岩波セミナーブックス
*『ビザンティン聖堂装飾プログラム論』 中央公論 中古しかないが高すぎ図書館で
*世界美術大全集 6 ビザンティン美術 小学館
*『ビザンツと ロシア・東欧』 講談社 ビジュアル版 世界の歴史第9卷 森安達也著 もう絶版だが宗教にも目配りがきいていてよいと思っている
『イタリア・ルネサンス美術の水脈』 塚本博著 三元社
2018年7月16日 完
|
|