旅日記をまとめようと思いつつ、もう二年以上たってしまった。
イスラエルを含む、地中海東岸地域の政治に動きがあったとはいえ、不安定な状況は続いている。しかし、その後もツアーは順調に催行されているようで、歴史遺産に恵まれたあの国々へ多くのひとがいくことができているのは素晴らしいことだと思う。
私は読むはじから忘れてしまうとはいえ、本大好き人間である。
旅行が決まると、あれこれ本を読み漁るのだが、今回はそれほど多くはなかった。
中東そのもの関心がある、というより、西洋の美術やキリスト教の歴史からさかのぼっての関心からの旅だったからだ。(どうやら、歴史の先生は 中東のことを 西アジア と呼ぶらしい。日本からみれば東ではない。地図でユーラシア大陸を見ればアジア西部だから、このほうが妥当な気がするが、通称に従う)
旅行前に読んだ本
* 都市の文明イスラーム (新書イスラームの世界史1) 講談社現代新書
三冊組のイスラームの歴史の一冊目で、イスラーム以前の中東の歴史から、14、5世紀くらいまでを扱っている。
この本はイスラームについての知識がゼロに等しい私にとってまさに目から鱗、であった。
だいたい、イスラームが都市の宗教、ということからして驚きだった。砂漠の民は交易の民で、ムハンマドもメッカの商人だった、ということも初めて知った。
十字軍のお城が見たいと思っていた。その十字軍がエルサレムを血の海にするような大虐殺を行なったことは知っていたが、この本によると、『クレルモン教会会議における十字軍宣言の原文が存在していないため、西洋史の側でも、ウルバヌス二世の軍隊派遣がエルサレム解放を目的としたものかどうかについての説がわかれている。少なくともビザンツ側の援助要請には、エルサレムについての文言はないという』 と書かれている。
聖地奪回の大義名分なぞなかったということになる。
* 物語 中東の歴史 牟田口義郎著 中公新書
この本ではここのところを、ビザンツ皇帝はセルジューク朝と戦うための援助要請のさい、「聖地でも迫害がおこっている」と嘘をついた、とかかれている。
いずれにしろ、正確な現地把握なしに教皇側は軍をおくったわけだ。(現代の何処かとにている)
この本はパルミラについても一章さいている。
十字軍については当然のことながら、キリスト教側とアラブ側では捉え方が異なる、そこで
* アラブが見た十字軍 アミアン・マールーフ 牟田口義郎訳 ちくま学芸文庫
次々と支配者が変わるので名前が多くて大変だが、訪問地が舞台の戦いでサッラディーンなどもでてくる。
(当然エジプトも舞台になる) ともかく、大河ドラマ的おもしろさだった。
ついでだが、2005年に『キングダム・オブ・ヘブン』という映画を見たが、この本と時代的に重なって楽しめた。
* フェニキア人 ゲルハルト・ヘルム 関楠生訳 河出書房新社
私はもともと特に古代に関心はなく、この地への関心も、たとえば十字軍など興味のあるところを、いわばつまみ食い的に見ようとする傾向にあるのだが、やはり、古代そのものにも関心は向いてくる。そういう点でこの本はとても良かった。
そういう意味でも、06年春のイラン旅行の前に読んだ
* 世界の歴史 4 オリエント世界の発展 中央公論社
はこの旅行の前にも読んでおけばよかった、と思った本である。
旅行後に読んだ本
* レバノンの白い山 山形孝夫著 未来社
実はこの本を旅行前に読み始めたのだが、なじみのない神々の名がでてくるので投げ出していた。
ところが旅行中、エシュモン神とかアシュタルテとかアドニスなどの名がガイドさんの説明で出てきたので、ちゃんと読む気になったのだが、興味深くて続けて同じ著者のものも読みたくなった。
* 聖書の起源 山形孝夫著 講談社現代新書
この二冊は内容的には重なるところもある。
非常に面白いと思ったのは、イエスをカナンの神々の系譜の中で捉える、という考え方である。
エシュモン神というのは病気治しの神様だが、アドニス神の本当の名前であり、穀物霊の死と再生の神のほかならない。この神は都市国家の崩壊とともに、遊行する神となった、とある。
福音書記者マルコはこのような神々の系譜のなかにイエスを治癒神として捉えたと書かれている。
また、最後の晩餐と遊牧民の過ぎ越しの祭りとの関連も興味深く、マルーラの聖餐台が生贄の祭壇に似ていることも納得がいった。
誤解のないよう付け加えておくが、この著者はゆるぎない信仰をもった方だと思う。
最後のほうのページに----イエスの言葉をめぐる伝承と創作の間の接点を追及してきた。結果はどうであったか。明白なことは、伝承を生み出したのは、イエスに対する歴史的関心ではなく教団自身の生活に根ざした要求であったということである。しかし、それにもかかわらず、第二次資料を除去して、伝承の最古層において出会うイエスの言葉は、聴く者に改悛を求め、決断を促す預言の言葉からなっている---として、いくつかの聖句を引かれていることからもそのことがよくわかり、また感動したところでもあった。
もっとこのあたりのことが知りたいとおもっていたら、友人が、
* イエスとその時代 荒井献 岩波新書 を貸してくださった。(これは絶版)
また別の友人は古代の神々と森の関係や蛇の話なでで面白いと安田喜憲 という環境考古学者の名を教えてくださった。
* 森のこころと文明 NHKライブラリー NHKの放送大学でこの方のお話のシリーズがあり、その内容をまとめたもの。
この著者は、花粉が強い膜を持っているので腐らないで何万年も残ることから、あらかじめ年代の分かった地層からボーリングによって土をとりだし、そこに含まれている花粉を分析することによって、その時代がどのようであったかを研究なさっている方。 エブラの近くでのボーリングから、王国炎上のころには最早レバノン杉はなかったなどということも分かったと書かれていた。
この本ではギルガメシュや蛇の話もありとても面白かったので
同じ著者で
* 大地母神の時代 角川選書 も読んだ。(これは場所的にはトルコを多く扱っている)
もっと色々読んだがこの辺にしておく。ともかくこの旅行ほど読書欲を書き立てられた旅行はなかった。私がこの地域にたいしてあまりにも無知だったことが大きな理由だが、文明の誕生の地として抜群に面白いところだからこそだと思う。
このエキサイティングな旅行が出来たことに感謝。
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