おわりに



思いがけず実現したアルプス地方にロマネスク教会を訪ねる旅。今年だからこそ行けた、行けて本当に良かったと満足感を持って旅を思い起こしている。
チヴァーテなども十数年前から行きたいと思っていて本は読んではいたが、実際に行くことになる、という前提で読んではいなかった。その他の教会についても準備不足で おまけに旅行中≪観ることができた,来ることができた≫という嬉しさで少々ハイになっているせいか、後からもっと説明をちゃんと聞いておけばよかった、ここを質問すべきだった、というところがたくさん出てきて旅日記も難航した。旅でご一緒だったお若いKさんにはその後もメールで助けていただいて感謝している。


今回の旅行で認識をあらたにしたことが二つある。一つはロマネスク壁画の豊かさ、面白さ、それとランゴバルド王国の存在である。

これまでロマネスクというと教会の姿そのものの美しさ,柱頭やタンパンなどの彫刻の面白さなど形態的なものに惹かれ、カタルーニャなど一部地域を除いては壁画にあまり目をとめていなかった。その一つの理由に、褪色していて判然としないものも多かった、ということも挙げられると思う。
ところがこのアルプス地域は気候条件、歴史的条件(道筋が変わって辺鄙な場所になってしまったため、そのままになって後の手が入っていないなど)から、ロマネスク時代どころか、カロリング朝(8,9世紀)の壁画までしっかり色を保っているのだ。限定された地域にもかかわらず、それぞれの教会によってスタイルの異なる壁画が見られ、飽きることがなかった。

以前スイスを旅行した時、《スイスは歴史の通り道》だと感じることが多かった。カエサルの通ったユリア峠を越え、ミュスタイアでカール大帝の像を眺め、ナポレオンが越えたグラン・サン・ベルナール峠をポストバスで越えた折など、私もまたこの歴史的な峠に今いるのだ、と感動したものだった。 
北に攻め入り南に憧れ、人々は厳しい峠越えをしたのだ。峠の出入り口を抑えることは重要で数多くの要塞のような城が造られ、修道院や教会が建てられた。旅の安全を願ってか、至る所で聖クリストフォロの壁画をみかけた。
南北の行き来を示すかのように、絵も 古代ローマ、ビザンチン、アイルランドなどの影響を受けている。
 
コモのところでも書いたが、彫刻で特に興味深かったのは組紐文の多用。それが直接的にはランゴバルド王国からきている、ということは私にとっては新知識。 
ランゴバルド王国の存在は知っていたが、カロリング朝に滅ぼされるべき運命にあるもので、歴史の中心はフランク王国であった。フランク王国の形成過程に置いて現れるもの以上の関心がなかった。しかし今回の旅行範囲はすっぽりこの王国におさまっている。蛮族美術などと失礼な呼称もあるが、特徴的な面白い彫刻を残している。(残念ながら今回の旅には入っていず未だみていないが、チヴィダーレなどに面白いものがある)この王国は200年この地域を支配し、カロリング朝の美術に影響を与えているのだ。 
またカロリング・ルネッサンスについても キリスト教史の講座でお話しをきいたせいか、学芸全般の文化運動というより宗教運動と理解していたが、優れた美術遺産があることも識ることができた。

私のロマネスク歴ももう15年、最近はこの中世中期より遡って初期中世や古代とのつながりなどに関心が向いてきている。そういう点からもランゴバルドは興味深い。

次は いつ どこへ行けるのか分からない。でもランゴバルドは私をそそのかしそうだ。 

読んだ本
 * 美術関係参考書(私が手に入れることができた本であって専門家の推薦というわけではありません)
  少し詳しく勉強するために
    *天使の舞いおりるところ 辻佐保子著 岩波書店 
   *柳宗玄著作選 3初期ヨーロッパ美術 4ロマネスク美術 5ロマネスク彫刻の形態学
                         八坂書房
   *世界美術大全集西洋編  7 西欧初期中世の美術 8 ロマネスク  小学館    
   *地中海都市紀行 名取四朗著 岩波書店

   *西洋美術解読事典   河出書房新社
   *
幻想の国に棲む動物たち  東洋書林
   *キリスト教シンボル図典 中森義宗著 東信堂

     その後購入したものとして追加
   * 民族大移動期のヨーロッパ美術、 カロリング朝美術 
    いずれも 人類の美術(新潮社) シリーズ 
    1970年頃の発刊で少し古いかもしれないが写真が豊富で説明も詳しい

  全体像をつかむために
   *美術から見る中世のヨーロッパ ラルースビジュアル版 
        ジャニック・デュラン 杉崎泰一朗 監修 原書房 
   *ヨーロッパ中世美術講義 越宏一著 岩波書店

  美術ガイド
   *イタリア古寺巡礼 新潮社 とんぼの本  
    今回行った教会のうち四か所が出ていて、私の撮れなかった写真も載っている
   *イタリア・ロマネスクへの旅 池田健二著 中央公論社

 * ガイドブック
   *イタリア旅行協会公式ガイド 
     1巻 ミラノ/イタリア北西部 2巻 ヴェネツィア/イタリア北東部 NTT出版
   * 地球の歩き方  ミラノヴェネツィアと湖水地方
   * 旅名人ブックス  トリノ/北西イタリア/サヴォア地方

 * 読み物
   *聖骸布血盟(上下) フリア・ナバロ作 ランダムハウス講談社
    ロマネスクとは関係ないが、トリノの町が出てくるキリスト教関連ミステリー(旅の徒然に) 

リンク集 ロマネスク関連のホームページはいくつかあるが、特に今回の地域に関して詳しいもの
  (私も大いに参考にさせていただいた)

  *ロマネスクのおと 
  ミラノ在住の方でイタリアの津津浦浦のロマネスク教会を歩いていらしてとて詳しい。
  写真も豊富。

  *オペラと美術の旅 (旅日記のページがロマネスク教会巡り)
  オペラとロマネスク教会巡りがご趣味の方。
  極力公共の交通機関を利用してみてまわっていらして、行き方についても詳しい。
  写真も豊富。オペラファンの方でご自分でチケットをとりたい方も参考になると思う

   地域は さまざまだが今回利用した旅行会社のブログが楽しいので 
  *ろまねすく通信 添乗してくださった山岸さんもよくお書きになっている。


 お土産   坂道の途中にバスを停めてひたすら山道を歩くといった所も多かったせいか、たいした買い物はできなかった。

 
     
          
 
     
パスタ、乾燥ポルチーニ  オルタ・サン・ジュリオで    キャンティ、 バローロ
   
 ペンケース  ノートとしおり
   
ノート、ペンケースなどは すべて空港のショップ  
   
 
トートバッグ  チロル城のそばで 上 ペンケース  下  ミュスタイアのピンバッチ
   
 修道女の一日を描いたカード かわいらしくてほぼ全種類購入  二枚ずつ写真に撮ったので 裏表というわけではなく 別々
   
   
   
  チロル城の麓のお店で 手作り 木彫りに着色
 
 
値の張るお買い物はしませんでした。 一番高かったのが空港で買ったバローロ。
ロマネスクツアーは辺鄙な場所へ行くので買い物は所詮無理なのです。絵葉書や解説の本さえ置いてないところもあり、旅日記作成には苦労しました。
これらの教会についての情報をおもちの方、お教えくだされば嬉しいです。   2010年10月22日完