8月17日

11日目

ロンドン〜サウスウエル〜リンカーン


5時の目覚ましで目が覚める。眠い。時差ぼけが解消すると朝がつらい。
6時30分頃お湯を沸かして、紅茶をいれ、クッキー二枚で朝食とする。
6時45分、添乗員のNさんから電話。7時に旅日記を届けてくださる。彼女の電話番号や緊急連絡先も教えていただいた。
列車の時間が早いくてレストランにはおりられないので、皆さんによろしくとお伝えくださるようお願いしておく。昨日のうちに何人かにはご挨拶したのだが。
ホテルに置いておくつもりの大きいスーツケースは 「いつものようにお部屋の前においておけば、ちゃんと預けておきますから」 と言われた。
キングズ・クロス駅に行くにはバス、地下鉄と乗り継ぐ必要がある。ラッシュ時、混雑した乗り物に荷物を持って乗りたくないので、タクシーで行くことにする。

7時30分、キャリー(車のついたちいさいスーツケース、機内持ち込み用)とショルダーバッグを持って下におりて、タクシーを呼んでもらう。(自分でもひろえるのだが、なんとなくそのほうが安心な気がしたので)チップが必要。たいして荷物もないもで。0.5でいいとおもったが、あいにく1ポンド貨しかなかった。
キングズクロス駅まで、約10分。7.8+0.2=8ポンド
イギリスでは前もって、列車が何番線から出ると決まっているわけではない。出発の掲示板に20分前くらいに出る。(それを見て、皆一斉に席を争って走る。それがいやだったのも一等車にした理由のひとつ)この掲示板の場所あたりは次々と列車が着いて人の流れが多いので、左手少し先を左に曲がったところ、ケンブリッジ方面に行く10番線のほうがすいていると思い、そちらにいってみる。ハリーポッターのホーム!!はこのあたり。そこのベンチで小説を読んで待つ。
8時10分乗車  

車内

やはり一等車はゆったりしている。
座席は2-1なので通路も広い。予約なしでも座れたようだ。

8時30分発車

間もなく、新聞を配りにくる。断ったが、近くの読んでいる人のを見ていてテロ情報を知るためにももらっておけばよかった、と思った。
つづいて、飲み物をもってくる。紅茶をもらい、ビスケットは断った。
一人旅の始まり。多少の不安感はあるが、一人になった解放感もある(ツアーでいやな思いをしたわけではないのだが)。三年前にこの列車に乗った時に景色がつまらない、と感じたが、やはり田園地帯を走るのは気持ちがいい。
途中のピーターバラ駅に入る直前、大聖堂の塔がみえた。非常に大きな教会だ。
9時48分 ニューアーク
トイレにはいる。とてもきれいだった。
改札口でキップの提示を求められた。
ここにきた目的は近くのサウスウエル・ミンスターに行って、ノルマン様式の教会建築と、13世紀のチャプターハウスの彫刻を見ること。
サウスウエル行きのバス時間をきくと、次は10時30分、というので、タクシーにする。
途中、三つくらいの村を通りぬけて、美しい田舎の景色を眺めながら約20分で、サウスウエルに着いた。 12.5+1(チップ)=13.5ポンド

サウスウエル・ミンスター
直接ミンスター(大聖堂)に車を着けてもらったが、村の雰囲気もよさそう。
まずゆっくり教会の外回りを歩いて彫刻などを眺める。大聖堂といっても小さな教会だ。
素晴らしいノルマン様式の入り口。

ミンスター北側 北扉口、ノルマンアーチ

必ずしもガーゴイルの役目を果たしているとは思えない壁の彫刻。豚やお魚がついているなんてはじめて見た。

ガーゴイルらしきもの

梁というのだろうか、そこにもズラリと人頭彫刻がならんでいる。

グリーンマン 顔、顔、顔

ゆっくり30分ほどかけて外回りを見みてから中に入る。11時のミサ中だったので、暫く待つ。ほどなくミサは終わって、数少ない会衆は帰っていき、ひとりふたり司祭と話しこんでいるだけとなった。
説明係?のまさにイギリス婦人といった、面長な品のいい初老の女性が寄ってきて、私のカートをみて、「重そうだけれど手を放さないよう」と注意。そしてビデオカメラをみて、「写真を撮りたいのなら、インフォーメーションで3.5ポンド払うように」と言われた。
そこで、インフォーメーションにいくと、そこのおじいさん、大歓迎といった様子で(数人しか観光客はいない)席を立って、私のカートを取り「ここに置いていくように」と言う。いいのかな、と思いつつ、お金を払っていると、くだんの婦人がいそいでやってきて、「カートを手放さないように」と言い、おじいさんに何やら注意している。
教会の床は滑らかなので、カートを引いて回ることは苦にはならない。ただ、音がうるさくて、恐縮なだけなので、そう言うと、「別にノイズィでない」といってくれた。
身廊は、交差部までは、12世紀のもの。いかにもノルマンらしい太い柱でがっしりしたつくりだ。
どっしりと落ち着いた雰囲気が良い。満足感にひたりながら、ゆっくり見て回った。
交差部にはクリスタス・レクスが掲げられている。(1987年 ピーター・ボール作)
ほかにも現代作家の彫刻がいくつもあった。サクソン時代の古いものが保存されているかと思うと、このように現代作家の作品も飾る (飾るという表現はおかしいかもしれないが) 教会の懐の深さ、というか、生きた教会である、ということが実に素晴らしいことだと思った。

ここの見ものである、 サクソン・ティンパヌム (たぶん11世紀のものだろうといわれている。1066年のノルマンコンケスト以前の教会がサクソン教会)が何だか可愛らしい。聖ミカエルとドラゴンだが、ドラゴンの尻尾にスカンジナビアの影響が見られるという。床の一部をガラスにして初期サクソン教会の床(ロマン・テッセラのリユース)を見せている。

サクソン・ティンパヌム ローマン・テッセラ利用のサクソン教会の床

ローマン・ヴィラにあった壁画

反対側の壁には近くのローマン・ビラの冷水浴室からもってこられた壁画がかざられている。(拡大すると、左下に三匹の魚がかろうじて見えます)
ここにドネーションの箱がある。他の教会のように強制的に取り立てないので、気持ちよく寄付することができる。書かれてあるとおり3ポンドの寄付。
聖歌隊席は初期英国様式で柱が違う。ここの入り口の彫刻も面白い。

ともかくおかしな彫刻のオンパレード。中世というのは魑魅魍魎の跋扈する時代だ。
よくゴシックの教会に林立する柱は森を表している、といわれるが、ここには森の木だけでなく、森に住むと想像されていた魔女や怪物もみんな引っ越してきているようだ。このあと行った教会でもグリーンマンやグロテスクと称される怪物(?)をいくつも見たが、この教会の彫刻が一番生き生きとしていて面白かった。
次にチャプターハウス(参事会会議室)に行く。
ここはサウスウエル・リーヴズとして有名な彫刻(13世紀のこの種の彫刻の最高傑作の一つということになっているそうだ)のあるところ。近くのシャーウッドの森(ロビンフッドで有名!)の木の葉を模したものだという。葡萄だけでなく、オークやメープルなどたくさんの種類の木の葉が彫られているのだが私にはどれが何の葉だか分からなかった。ここには9種類のグリーンマンが彫られている。

チャプターハウスの入り口 グリーンマン

グリーンマン、サウスウエル・リーブズという名があるだけあって葉の彫刻も精緻を極める

ノルマンから初期ゴシックのさほど大きくない教会なので、ゆっくり見ても一時間半くらいしかかからない。それにしてもお化け教会だ。

1648年、ピューリタン革命で破壊された司教館 教区牧師館

教会から出ると、12時30分。ちょうどお昼だ。敷地の隅にあるレフェクトリー(食堂)に行ってみる。明るくてきれいなので入ってサンドイッチと紅茶を頼む。(4.15ポンド)
席に着くと近くのテーブルにインフォーメーションのおじいさん。手をあげて挨拶。
安いのにここの紅茶が結局今回の旅行中飲んだ中でいちばん美味しくておかわりまでしてしまった。
隣がショップなのでそこをのぞいてから、教えてもらったバス停に行く。時刻表を見ると行ったばかりで、次のはかなりあと。
列車に間に合うかな、と思っているところにインフォーメーションのおじいさんがあらわれた。「どこへ行くの?」「ニューアークへ」「今日の私の仕事は終わった。これから家に帰るから車で送ってあげる」 助かった、という気持ちとともに、悪いけれど運転大丈夫かしら、と心配にもなる。結構なお年で、運転とは関係ないけれど、パンフレットや絵葉書を買ったときの計算もかなり手間どって大変だったのだ。歩き方もいかにも 老人といった歩き方。どう断ってよいか分からないまま、車を向こうにとめてあるから、というのでついていく。
道を渡ったところにある由緒ありげな建物、「ここはキング・チャールズが処刑される最後の晩に泊ったところだ」そうだ。そこのカーパークに行く。なにやらおじいさんの様子がおかしい。しきりに次々車を覗き込んでいる。「オー、マイカー」どうやら車がないらしい。
「シルバーだけど。別のカーパークかもしれない。」
悪いとは思ったがこれを機に「あなたのお申し出は大変うれしいけれど駅は貴方の家よりずっと遠いので」、とお断りする。本当は車探しにつきあってさしあげるべきだとは思ったが、そうなると彼の車に乗らざるを得なくなる。お別れしてホテルに入り、フロントでタクシーをよんでくださいと頼んだ。気持ちよく電話をしてくださって、20分かかるから、お茶でも飲んで待つように、といわれたが、もうおなかはいっぱいだったので、そばのイスで待たせてもらった。
このホテルの名はサラセンズ・ヘッド。 
チャールズ一世は1649年に死刑(ピューリタン革命)になったが、自由の最後の夜を過ごしたのがこの宿だったそうだ。太い梁が印象的な重厚な造りで、壁にはキング・チャールズの絵がかけられていた。キングを処刑するのに使ったのが十字軍でサラセン人を切った剣とだかで、12世紀から続くコーチング・イン『キングズ・アームアズ』の名をこう改めた、と宿のパンフレットに記されていた。

サラセンズ・ヘッド ホテル ホテル内部
キング・チャールズ

27室ほどの小さなホテルだが、時代を感じさせる落ち着いたホテルだ。知っていればここに泊ったのにちょっと残念。 
タクシーで駅に向かう。タクシーは20分かけて遠くから来たらしいが、行きと殆ど同じで14ポンドだった。
ニューアークの駅に着くと雨。 きた電車はたった一両だった。

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